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福島地方裁判所 昭和23年(行)10号 判決 1948年11月05日

原告

関根敬次郞

被告

月舘町農地委員会

被告

福島縣農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

請求の趣旨

原告は、被告月舘町農地委員会が別紙物件目録記載の土地につき立てた買收計画はこれを取り消す。被告福島縣農地委員会が右買收計画に対する原告の訴願につき、昭和二十二年十一月二十七日附でした裁決はこれを取り消す。別紙物件目録記載の土地が原告の所有に属することを確認する。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求める。

事実

被告月舘町農地委員会(以下、町農委と略稱する。)は、別紙物件目録記載の土地は、不在地主堀切太郞左工門の所有する小作地であるとして、これにつき買收計画を樹立し、昭和二十二年八月二十八日これを公告した。しかしながら、右土地は、原告の所有なので、原告は、これに対し異議の申立をしたが、同年同月三十一日附で棄却されたので、更に被告福島縣農地委員会(以下、縣農委と略稱する。)に訴願したがこれまた、同年十一月二十七日附で棄却され、昭和二十三年二月十五日右裁決書謄本の送付を受けた。本件土地は、もと原告家の所有であつたが原告の先々代又市は、その妻の父菱沼惣太郞に対する債務のために、これを代物弁済に供して所有權を移轉したところ、惣太郞は、何時でも、無償でこれを又市に返還することを約した。又市は昭和六年九月死亡したが、その家督相續をした正一は、心神耗弱者で、これを費消する虞があつたので、親戚協議の結果、所有権移轉登記を見合わせていたが、老齢に達した惣太郞は万一の場合を憂え、昭和十五年一月二十四日本件土地を正一の叔母の夫である堀切太郞左工門に信託し、自己に代つて、正一のためにこれを保全させることにして、堀切名儀に所有権移転登記を経由したが、正一は、昭和十七年五月死亡し、原告は、その家督相続人に選定された。その際、受託者堀切は、原告が、成年に達するときは、右信託契約は当然終了し、本件土地の所有權は、原告に復歸するから、直ちに名儀書換をすると、菱沼惣右工門、關根良助等立会のもとに約したのである。原告は昭和十九年八月二十六日成年に達したので右信託契約は、自動的に終了し、本件土地の所有権は原告に歸属したのである。当時原告はソ連に抑留されていたが、昭和二十二年六月復員したので、堀切に所有権移轉登記を求めたが、同人は、知事の許可がないからとて、これに應じなかつた。原告は同人と訴訟の結果(福島簡易裁判所昭和二十二年(ハ)第一六號土地所有権移轉登記手続請求事件)、勝訴し、昭和二十二年十一月二十九日該確定判決に基いて、所有権移轉登記を経由した。しかるに町農委は、この間の事情を詳にせず、前示買收計画を立てたので、原告は、異議、訴願の申立をしたが、町農委も、縣農委も、共にこれを棄却したのは、原告の右所有権を無視した違法のものであるから、右裁決及び買收計画の取消を求め、あはせて町農委との關係では、本件土地が原告の所有に属することの確認を求めるため、本訴に及んだ次第であると述べ、被告等の登記欠缺の抗弁に対し、却つて、國こそ、買收をもつて原告に対抗し得ないものである。何となれば、不動産に関する物件の得喪及び変更は、それが当事者の意思表示に基く場合は勿論、公用徴收や競賣等の原始取得の場合でも、總て登記法の定めるところに從い、その登記をしなければ、これを以て、第三者に対抗し得ないものであり、自作農創設特別措置法によつて、國が農地の所有権を取得する場合も、これと別異に解すべき理由がないのである。しかるに、原告は前示の如く、昭和十九年八月二十六日本件農地の所有権を回復し、昭和二十二年十一月二十九日、登記を経由して、対抗要件を具備したから、原告の所有権は、その買收につき、まだ対抗要件を具備していない。國の買收に優先するものであるからである。尤も、同法第十一條は「第六條乃至第九條の規定によりした手続その他の行爲は、第三條の規定により買收すべき農地の所有者……の承繼人に対してもその効力を有する。」と規定するから、これを本件にあてはめてみると、元所有者であつた堀切に対して開始された買收行爲は、その承繼人である原告に対しても、依然有効であり、國は、その所有権取得につき、対抗要件を具備しなくとも、これを具備している原告に対抗し得るものと解すべきが如くであるが、同條から、直ちに、國の前示所有権取得を以て、何人に対しても、優先するものとの結論をひき出すことはできない。同法による國の買收行爲は、買收令書の交付により、買收予定の時期に、その効力を生ずる(同法第十二條第一項)から、物権変動は、遡つて生ずることになるが、その間に第三者が、買收農地につき、物権を取得し、その対抗要件を具備するときは、第三者は、國に優先するものであり、從つて原告もまた國に優先するものであるのに、被告等は、登記に関するこの法理を誤り、原告の所有権を無視する違法をおかしたものであると述べ、證據として甲第一乃至第三號証を提出した。被告両名は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、町農委が、本件土地につき買收計画を立てたこと、これに対し、原告が、異議訴願の申立をしたが、いずれも棄却されたこと、本件土地がもと関根又市の所有であつたが、同人から、菱沼惣太郞、堀切太郞左工門と順次所有権が移転されたこと、原告がソ連に抑留後、復員したこと及び原告主張の判決に基き、原告が、本件土地につき所有権移轉登記を経由したことは、これを認めるが、その餘の事実は、これを否認すると述べ、抗弁として、本件農地は、飯坂町に住所を有する堀切太郞左工門の所有する小作地であるから、町農委は、右事実に基き、その買收計画を立てたものである。假りに本件土地が、原告の所有であるとしても、原告は、本件買收計画公告当時、まだ、その旨の登記を経ていなかつたから、第三者である被告等にその所有権を以て對抗することができないと述べ、甲第一、第三号証の成立は不知、同第二号証は、登記官吏作成部分の成立を認めるが、その餘の部分の成立は不知と述べた。

理由

本件農地が、かつて関根又市の所有であつたが、同人から、菱沼惣太郞、堀切太郞左工門に順次所有権が移轉されたこと、原告がソ連に抑留され、昭和二十二年六月復員したこと、原告が、原告と堀切間の福島簡易裁判所昭和二十二年(ハ)第一六号土地所有権移轉登記手続請求事件において勝訴し、該確定判決に基き、同年十一月二十九日本件土地につき所有権移轉登記を経由したこと、町農委が、本件土地を不在地主堀切太郞左工門の所有する小作地として、買收計画を定め、同年八月二十八日これを公告したこと、これに対し、原告は、自己の所有権を主張して異議の申立をしたが、同年、八月三十一日附で棄却されたので、更に縣農委に訴願したが、これまた同年十一月二十七日附で棄却されたことは、当事者間に爭がない。そうすると、假りに、本件土地所有権の移動に関する原告主張事実が全部認められるとしても、町農委が、本件買收計画を公告した昭和二十二年八月二十八日当時、右土地は堀切太郞左工門の所有として登記され、原告名義に登記されていなかつたのであるから、原告は、その所有権をもつて、第三者である町農委や、縣農委に対抗することができないわけである。原告は本件買收計画の公告された昭和二十二年八月二十八日当時、原告は本件土地につき、所有権取得の登記を経ていなかつたが、その後同年十一月二十九日登記を完了し、対抗要件を具備したから、原告の所有権は、まだ対抗要件を具備していない。國の買收に優先するか、この見解には賛成できない。若し、かような見解が許されるなら、自作農創設特別措置法第十一條、第十二條の規定は、全く空文と化するからである。本件では、町農委の買收計画及び縣農委の裁決が爭われているので、國の買收が問題となつているのではないが、同法第六條乃至第九條の規定による、これら一連の行爲は、同法第十一條の規定により、買收すべき農地の所有者の承継人に対しても、その効力を有するのであり、これを買收した國は、同法第四十四條の規定により、政令の定めるところに從つて登記すれば足るのであるから、右登記以前に、対抗要件を具備した承継人の所有権でも、買收による國の所有権に優先するはずはない。よつて、原告の本訴請求を失当と認めて、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(物件目録省略)

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